プランティングの現場は戦場。マネージャーとスーパバイザーの怒号が飛ぶ泥だらけの現場。

　　

昨夜の晩、雨の影響で遅れていた数万本におよぶ苺の苗がよやうやくトラック数台で届けられた。ファームの社員が昨日の夜のうちに荷下ろしを行い、プランティングのスタンバイは万全。今日の仕事は突然決まった。

畑のすぐ横の倉庫には天井までとどくほど苺の苗が入った箱が積み上られ、各畑のブロックごとにトラクターで仕分けの作業が続いていた。数万本という苗の量はこれから本格的なプランティングの始まりを告げているようだった。

昨夜の晩にマネージャーから電話がありプランティングは朝6時から開始。5時30分に集合場所に集合し一通り説明を受けた後プランティングを開始するとのこと。

朝５時けたたましい目覚ましのアラーム音に起されまだ半起き状態の頭必死に仕事モードに切り替えながら仕事着に着替える。

しかしおかしい。昨日の晩の時点で翌日の降水確率は80%だった。降水確率が80%ならば、今までだったらマネージャーから昨晩までに仕事の延期を申し渡されるはずなのに、それがない。今もかなり雨脚が強い。

どうしてだ？マネージャーも天候の事は誰よりも気にかけているはずなのに休みじゃない？? この時は今日ののプランティングの現場が修羅場と化すとは知る由もなかった。

畑のコンディションは最悪。へどろに足を取られる

激しく降りしきる雨の中、現場に到着するなりマネージャーの怒声がファームに響き渡る。

「おい　いいか？　よく聞け。今日のプランティングは重要だ！　何度も説明しているが苺の苗、特に根っこの部分は太陽の光にすこぶる弱い。太陽に常時間根をさらせばあっというまに苗が死んでしまう！だから今回このプランティングは太陽が出る前にすべてを完了させなければならない。もたもたしている暇はない。

いいか以前試験的に晴れの日にプランティングのトレーニングを実施したが、実際は日が隠れる曇りの日か雨に日で気温があまり上がらない早朝に仕事を行う。

気温の上昇は苺の苗に取って大敵だ。今日の分(およそ3000本)の苗は日中までに終らす。いいな？遅い奴はクビだ。スーパバイザーに従わないものはすぐにドンガ（宿舎）に帰らせてここを去る準備をしてもらう。

そこ話を聞けー！！！俺たちは遊びでやっているんじゃない。日中になるまで今から7時間しか無んだぞ。一つの畑に500本の苗を植えてもらう。制限時間は一つの畑につき1時間だ。それを6面やってもらう。不満があるやつは今すぐここから出て行け！！」

マネージャーの厳しい怒声で当たりは緊張感に包まれワーカー達は静まり返る。

降りしきる雨の中での仕事の理由は太陽の光に長時間さらすことで苺の苗の根が乾燥し弱ってしまう事を防ぐことだった。

ここカブルチャー、モレイフィールドは空に雲が停滞したまま天気が安定するという事は無い。空が厚い雲に覆われたらすぐに小雨が降り始め土砂降りになるまで雨はやまない。ということは太陽が出ない日に働くということはほぼ雨に打たれながら働くということだ。

長時間激しい雨に打たれた土は水を含みすぎてへどろと化し簡単に膝を呑み込んでしまう。どこへ歩いて行くにもへどろに足を取られてこけまくる。仕事前にすでに泥だらけ。泥が深いためそもそも耐水性のブーツなんて役に立たない。

女性のワーカーは非常にキつそうだ。この仕事のために新調した服があっという間にどろだらけ、長い髪の半分はへどろにつかり乾いてパサパサになっていた。女性にとってはある意味ハードワークだ

畑の畝と畝の間はもはや洪水になっていて水の下に沈殿している土は底なし沼のようにズボズボ足が入って行く。

苗を運んでいるトラクターも車輪が泥にはまりなかなか前に進まない。畑のコンディションは最悪だが、マネージャーはこれ以上の待機は収穫に影響すると考えたのだろう。雨の中の強行軍だ。ずぶぬれ、泥だらけになりながらの仕事開始だ。

泥だらけの戦場。マネージャーとスーパバイザーに追い立てられまくる

仕事開始後はまさに戦場。あちらこちらでマネージャーとスーパバイザーの怒鳴り声があたりに響き渡る。ワーカーは追い立てながら苺のプランティングを行う。

プランターは3人のチームを編成してプランティング作業を行う。一人は畝の上の適所にバケツに入れられた苗を置いて行く。後の2人は置かれた苗を順番にヘラを使用して畝に植え込んで行く。

30分ごとに役割を交代しながらハイスピードで作業を行う。皆泥を飛ばし、顔に泥がついても気にせずものすごい勢いで苺のプランティングをしている。

それもそのはず　すこしでも手を止めるとマネージャーやスーパバイザーが近くに来て怒鳴り飛ばす。

「そこー！！立ってる奴は何やってんだ！！？何を待っているんだ？　ここで腰を休ませるな！後で休憩時間はある！　おい手が止まってるぞ！！　仕事が遅い奴は今すぐドンガに帰らせるからな！！　いいかーー！！　全員昼までに仕事を終わらせろ！　終らせなかったら明日は仕事はなしだからな！！　おい遅い！無駄話はするな！！　話してる暇があったら手を動かせー！！　」

終始こんな感じでマネージャーとスーパバイザーから詰めが入る。もう戦場だ。泥がかかるよりも恐ろしいマネージャーの追い込みの方を気にして男女ともに汚れなんか気にしてられない。

とくに女性はかわいそうだ。男性と仕事の条件が同じで、マネージャー、スーパバイザーともに女性にも容赦なく詰めて来る。本当に辛そうだ。

私の仕事はバケットボーイ

私の仕事はバケットボーイだ。トラクターで運ばれて来る苗をバケツに詰め替え、バケツに入った苗を植え終わりそうなプランターの元へ畝の間を走って届ける仕事だ。

これも当初はチームでやるという話だったが、プランティングを優先させるという事で私一人がこの仕事を担当する事になった。もうね無理。全然ペースが合わないもん

トラクターで倉庫から運ばれて来た箱に入った苗を現場でバケツに詰め替えている最中にしきりに私を呼ぶ声がする。

「おーい、バケツが足りないぞー！！　こっちもだー！！　作業がすすまないぞー。」
マネージャー：「お前は何やってんだ！！　走ってこれ全部持ってけ！　違うそっちじゃないこっちだ！！　これもついでに持ってけ！」

一気に苺の苗が入った6つのバケツを持たされぬかるんで足場が悪い畑の上を走らされる。プランティングのスピードが早いせいで3時間は休憩無しで行ったり来たりを繰り返す。つねに誰かが私を呼び私は"Who need backet!!?"と叫び声を上げながら畑をかけずり回る。まるで軍の教育訓練を受けているみたいだ。

しかもこのバケツ、かなり重い。苺の苗をバケツに入れた後苗が外気でひからびないように大量の水をバケツにいれるのだ。もう本当に走るなんて無理。ちょっとしんどすぎるよマネージャーだれか一人手伝ってくれる人ください！！

ぬかるんでいる畑はよく足をとられ両手がバケツで塞がっている為バランスをとりにくく、ひとたび足がぬかるみにハマると派手にコケて顔からへどろにダイブする。常に誰かが苗が取り無くなる為、私は常に焦っている。そのためバケツの苗を派手にぶちまけてそこでまた怒られる。へどろでぐちゃぐちゃになりながらマネージャーとスーパバイザーに追い立てられ、かなりへとへとだ。

仕事が終る頃には全く抵抗無く泥の中に腰を下ろしてしまった。それだけハードワーク。そのまま泥の中で寝てもいいと思うくらい疲れる。今日の仕事は7時間だったがもう初日で足腰がやられて次の仕事が思いやられる。

翌日はマネージャーに追加人員の募集要求を出すつもりだがそれでも負担が軽減されるとは思えない。なんとか絶えてみせる。

今日の仕事を終えて結局脱落者が女性を中心に10人程度出た。7時間という短時間の仕事であったが、仕事の内容は軍隊の教育訓練そのもの。教官の怒鳴り声に追い立てられながら泥だらけになりながら仕事をするようなもんだ。ファームのフルタイムワーカーも全員男性。この状況に絶えられる女性はなかなかのツワモノだ。ファームによってはかなりワークスタイルが厳しいところがあるので仕事は覚悟して臨むようにしよう。