コントラクターとファームの関係

  
今月はストロベリーの収穫が始まり灌漑設備の本格的な調整と修繕を行っていたため連日12時間を超える長時間労働が休み無く続きました。

先月丸一日休みが取れた日数は1日のみです。毎朝仕事が5時半に始まるので9時には就寝という感じで全くプライベートな時間が持てず仕事しては帰って来て、シャワー浴びて洗濯して飯食って寝るという繰り返しです。

ただ日々仕事で新しい事が学べるのでその点は非常に楽しいですし、きつい仕事ですが、自分たちの仕事が着実にプラントの成長につながっているのが実感でき、日々苺が実り始めているプラントを見るとやりがいを感じます。

コントラクターって何?

さて今日はここクイーンズランド州でファームのカジュアルワークを斡旋するコントラクターについて書きたいと思います。

コントラクターとは日本で言うところの人材派遣会社といったところでしょうか。彼らの仕事は簡単に言えばファームのマネージメント側の要求に応じて必要な数の人材を集めてそのファームの適当なカジュアルポジションにワーカーとして派遣することですが、実は彼らの仕事は人材斡旋に留まらず、カジュアルワーカーの勤怠管理やファーム内の宿泊施設の管理、給与の支払い、カジュアルワーカーをスーパーバイズ(管理、監督)してファームのマネージメント側にまかされた仕事を遂行して確実に成果をあげていかなければなりません。

そのため彼らはマーケティングや集客によって人材獲得に長けているだけでなく、プラントの性質や育成方法、灌漑の管理方法まで熟知している必要があります。
なぜならば何も知らないカジュアルワーカーやバックパッカーを教育することはコントラクターの仕事だからです。

コントラクターの会社からスーパバイザーとしてファームに派遣されてくる社員達は元々別のファームでスーパバイザーやマネージャーを経験している農業従事者であることが多く、カジュアルワーカーやバックパッカーを効果的にマネージメントして成果を出す方法を知っています。

もっと端的に言うと、ファームでマネージャーとして長年勤め上げた人間が独立して農業専門の人材斡旋会社を立ち上げいくつかの大規模農家とパートナーシップを組んでいくということです。

どのようにコントラクターは稼いでいるか

ではどのようにコントラクターは収益を上げているかということですが、コントラクターによって収益の源泉は異なります。基本的にはワーカーに直接斡旋料を請求するか、ファームのマネージメント側と交渉し斡旋した全ワーカーの時給毎に数ドルのバックを貰いより永続的に収益を得るかです。

いずれにしても収益の柱はコントラクターが自ら斡旋したカジュアルワーカーにあるため多くのカジュアルワーカー、バックパッカーを雇い入れ、若しくは長く働かせる事で収益が発生する仕組みになっています。

私が働いているこの苺ファームでは直接雇用されているフルタイムワーカーの時給が26〜7ドルで、コントラクターを通して雇われているカジュアルワーカーの時給が21ドル前後なので、単純に計算するとワーカー一人当たり時給毎に5~6ドル前後コントラクターによって中抜きされていることになります。

それだったらコントラクターはカジュアルワーカーを雇うだけ雇って働かせるだけ働かせれば 儲かるじゃないかと思うかもしれませんが、その通りです。コントラクター側は収益の事を考えれば出来るだけ雇い入れて長くワーカーを働かせたいと思っていますが、ファームのマネージメント側は常にコストの事を気にしています。特に歩合であっても時給であっても時間的コストは非常に彼らにとってセンシティブな問題でシーズン前にプランティングが終らなかったとなると莫大な損失を出す可能性があるので、彼らには生産性のない給料だけを食いつぶすワーカーをどんどん切って結果を残す一部の優秀なワーカーに残ってもらう事が狙いです。

コントラクター側もファームのマネージメントの要請にはシビアに応えずにはいられません。なぜならばお金が生み出される源泉は何と言っても苺の収穫量にかかって来るからです。人を雇っても全く働かない、言う事を聞かないワーカーであったらそのファームの死活問題になってきます。

なぜカジュアルワーカーが必要なのか

ファームのマネージメントなぜ少なくない給料を設定しコントラクターを通してまで大量に人材を採用するのか。それはずばり機会損失や時間的コストを最小限に抑える為です。決められた期間にプランティングの全ての行程を終らせ収穫のシーズンに備えるためには常に時間的な制約が付いて回ります。制限時間内に全ての行程を終わらせないとアウトです。収穫高が激減し一気に赤字に転落します。

時間的な制約とはプラントの寿命でありプラントの管理です。プランティングの時に箱詰めされた苗を数週間で植え切らないと苗は一気に死に絶えます。苗から伸びたランナーを切らないと苺の収穫量が減ります。苺を素早く収穫しないと苗は新しい花を咲かせません。花が咲かなければ苺は収穫できません。

勿論、収穫高に影響を与える主な要因として天候が挙げられますが、ここオーストラリアクイーンズランド州は一年を通して比較的天候が安定しており、雨も滅多に降らないため、8割方灌漑設備に頼っており、ほぼ人為的なオペレーションによって収穫高が増減します。

結局マンパワーで一気に必要な行程を期間内に終らせる事が収益を上げるか赤字に転落するかの分かれ目になってきます。

またワンシーズンに何百人と人を雇うわけですから人件費も馬鹿にならない額です。そのため必要な時にいつでも生産効率の悪いワーカーを切り、人件費をシュリンクさせたいときに大幅なレイオフが簡単にできるカジュアルワーカーがファームにとっては必要なわけです。

ただ現在はハイテクの流れが、私が働いているファームにも来ていて、現在試験的ににプランティングやピッキングのロボットの導入を進めています。数年後には恐らくごく少数の経験豊富なカジュアルワーカーしか採用しない可能性が高いです。単純労働の機械化の波はここオーストラリアのファームでも確実に押し寄せています。

ではなぜファーム側はコントラクターが必要なのか

コントラクターが必要なファームは中規模から大規模農家です。私が働いているファームに限って言うと、彼らの出発点は同族経営です。小さな農場からスタートし家族や親戚で切り盛りしながら長年に渡って少しずつ生産量の拡大を続け、やがて家族や親戚だけでは手に余るほど成長した段階でコントラクターと契約し外部の人間を交えてファームを支えて行きます。

コントラクターはファーム側にとってみれば言わば人事部のようなもので必要な人材を集めて管理してくれる存在です。コントラクターが雇っている人材を全て除けば極々わずかな同族の人間や長年共に働いてきたマネージャーしかいません。だからこうした大規模な農家を支えていくには、ファーム側にとってコントラクターとパートナーシップを組む事が生産量の拡大を続ける上で非常に重要になってきます。

現在のファームの雇用形態について

私が働いているファームの雇用形態は直接雇用とコントラクターを通しての間接雇用 2種類に分かれており、カジュアルは間接雇用でコントラクターを通して雇用され、フルタイムは直接雇用となっています。

こちらのファームではフルタイムのポジションは滅多に公に募集を掛けません。なぜなら同族の人間をフルタイムで雇っているからです。特に必要な能力を兼ね備えた外部の人間を雇う場合は人づてや紹介が中心です。

現在はフルタイムの人員は6人で他70~80人の従事者はコントラクターを通してカジュアルとして雇われ必要な時に仕事に呼ばれます。

フルタイムの人員がカジュアルに比べて極端に少ないのはファームのマネージメント側が人件費やその他のコストに非常にシビアになるためです。

農業は作物を収穫して市場に卸して初めて利益が得られるビジネスです。シーズンオフを含めた作物を収穫するまでの全ての期間は準備に当てられるため、その間、収入は極端な話0で全ての労働やリースその他諸々のコストは将来の収穫の為の投資になるわけです。

人手を要する農業ですが、やはり人件費は悩みの種のようです。

同族、家族経営の大規模農家はコントラクターとは切っても切れない関係にあります。コントラクターはファームのマネージメントに、必要に応じて人材育成や人的マネージメントについてコンサルを行うこともあります。"人を動かす"のも技術。生産効率を求める農家にとってこうした経営資源を購入することは自らお金と時間を使ってノウハウを積むよりも非常に効率が良いのでしょう。

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