ハンプティードゥーでのマンゴーファーム プルーニング体験記

  


久しぶりにブログを書きます。ここ一週間ちょっとファームの仕事に行って参りました。ダーウィン郊外の田舎町ハンプティー・ドゥーで収穫期前のマンゴーの木のプルーニング(余計な枝木を切り、幹に切り込みを入れて木の高さを一定に保つ)の仕事です。

1月中と言えば、オーストラリアは夏真っ盛りと言ったところですが、作物の収穫シーズンを迎えるには数ヶ月早く、ダーウィンCBDにあるバックパッカーホステルやユースホステルはほとんどファームでのジョブオファーがありませんでした。
出されている求人と言えば、ホテルのウェイターやキッチンハンド、クリーナー、あるいはナニー(ベビーシッター)といった仕事でこれらの仕事は安定はしていますが、ほとんど最低時給に設定されている為、なかなか応募するという決断ができません。

というのもオーストラリアの中でも比較的物価が高いと言われているパースをさらに上回る物価の高さです。数日分の食料をスーパーマーケットで購入して70ドルいきました。日本のスーパーで買いだめしても7000円以上使うことはあまりないのではないでしょうか。しかもこれが一人分で数日分の食料の値段です。財布からどんどんお金がなくなります。

それに加えてバックパッカーホステルの宿泊料金が一週間でおよそ150ドル以上です。しかもこれはシングルタイプではなくて6人と共同部屋です。一ヶ月で換算すると650ドル以上です。日本では少々体は悪いですが、月6万円払えば、立派なワンルームのアパートを借りられます。

どれだけダーウィンの物価が突出的に高いかお分かりいただけると思います。なので、こちらの最低時給17ドルの仕事では手元にほとんどお金が残らないんです。飲食店やベビーシッターとして働くという事は生活費の為に働いていると同じ事なのでそのスパイラルにハマる前に条件が良い求人を探すことが重要です。

キャサリンやカナナラなどダーウィン近郊のファームは時給が20ドルから25ドルで宿泊施設や食事を保証してくれるところが多く、求人の応募者はだいたいファームに流れます。しかしファームのシーズンオフはどこのバックパッカーもユースホステルもジョブオファーが閑古鳥状態。直接車で農家に向かってもほとんど門前払いなので路頭に迷うことになります。

私もご多分に漏れず、仕事は現地で探せという原則を聞いて、時給の高い仕事が多いダーウィンに直接来てジョブエージェントやバックパッカー、ユースホステル、インフォメーションセンターで聞きまくり、時にはヒッチハイクでCBD近郊の農家まで出向いて直接交渉までしましたが梨の礫でした。

私は幸運なことに一件の求人広告をあるバックパッカーホステルで見つけて直接電話して応募して採用されました。宿泊施設は保証し、時給およそ22ドル一日12時間労働という条件です。仕事内容はプルーニング。辞書で調べると小さな枝木を切り取るとあります。簡単な仕事だが....しかし一抹の不安が頭をよぎります。バックパッカースタッフの話によるとおよそ一週間前から求人広告を張り出していたというのです。

おかしい、これだけ高時給なのにまだ応募を締め切らないのは何か問題があるのではないかと思い始めたのです。その不安は後程的中する事になります。



早速アコモデーション(宿泊施設)に通され仕事の説明をされます。何エーカーあるか分からない広大すぎるマンゴーファームの数百本のマンゴーツリーの枝木を取り除きチェーンソーで幹に切り込みを入れて意図的に木の成長を止めて収穫しやすい木の高さにするらしいのです。この作業を今から2週間で完了しろ!お前ならできると言われました。なんだチェーンソーで枝木を切り取って、幹にひたすら切り込みを入れる楽な仕事じゃないかと思っていたのが、仕事をやり始めて愚かだということに気づきました。



これはアコモデーションのキッチンダイニング。床は汚いコンクリ。写真だと分かりませんが、この部屋の中にはハエがウヨウヨいて衛生環境は非常に悪いです。スプレーしてもどこからともなくハエが沸いてきます。また建物そのものに欠陥があるのか、窓に多少の隙間があり、夜になると羽蟻が部屋の中の光を求めて続々と侵入してきます。本当に都会育ちの私にとっては、地獄絵図です。それにしてもハンプティードゥーのエリアはほんとうにハエが多くそれにしつこすぎるくらいつきまといます。これが不思議な事に数日立つと体のどこにハエが引っ付いていてもどうでもよくなって払う動作すらしなくなります。慣れとはおそろしいです。



これは私の宿泊していた部屋です。このベッドはダニの巣窟です。朝起きると発狂しそうなほど体が痒くなります。とくに腕や脚はグロいほどぼつぼつになっていましたし、掻きすぎて血まみれでした。雇用主になんども苦言を呈しましたが、後でやると行って結局なにもしてくれなかったので、仕事中はベッドのマットレスとシーツ、掛け布団を外で干しました。結構ましになりましたが、ここにいる間は痒みでだいたい寝不足です。本当に劣悪すぎる宿泊環境でした。

マンゴーツリー

仕事は小型のチェーンソーを使って木の枝から出た余計な芽や茎を刈り取り、一年ごとに幹に切り込みを入れて行きます。切り込みはチェーンソーで幹を一周させます。木の幹は切り込みと切り込みの間が成長する事もありますが、基本的に幹は切り込みを入れた上部が成長していきますので、年が経てばたつほど、切り込みを入れる場所は高くなっていきます。特にこのマンゴーファームの木は切り込みを入れてから数年から10年ほどたつものがあり、身長が低い私は、チェーンソーを頭上に持ってきて切り込みを入れなければなりません。また木は常に切りやすい位置に幹が伸びているわけではありません。特に幹通しの間隔が極端に狭かったり、重なる形で伸びている場合は、チェーンソーで切り込みを入れる姿勢が極端になります。幹を背にブリッジする形で切り込みを入れたり、半分地面に寝る形になったり、またチェーンソーの持ち方も様々変化させながら器用にきれいに、古い切り込みに対して平行になるように切り込みを入れて行かなければなりません。

この作業は雨天を除いて、休憩も挟みますが、およそ一日10時間から12時間やり続けます。特に1月中旬から下旬にかけてのハンプティードゥーの気温は連日30度を超える真夏日和。死ぬほど暑い中長時間の肉体労働です。一日の作業が終る頃にはチェーンソーを持っていなくても腕を肩の高さ以上に上げる事は困難になるほど消耗します。どれだけプルーニングの作業が過酷だかわかると思います。

仕事が終って宿泊施設に帰って食事の支度を始めるのですが、まず全ての物が重く感じ、ボトルのキャップを空けるだけで最大の労力を使い、小型のフライパンでさえ両手で持たないとこぼしてしまうほど手のコントロールが効かなくなっています。完全に通常の日常生活に支障をきたしていました。そんなハードすぎるライフサイクルに耐えきれず仕事に応募して採用されたものの辞めて行った人は数知れず。最初は10人くらいでしたが、仕事の終盤には私を入れて4人くらいまで減っていました。しかも最初に私とともに働ていた9人は全て辞めて行き、最後の3人は私より後に入って来た人達です。ほとんどが車で夜逃げ状態。私は車を持っていないのでとどまるほかありませんでした。正直私自身毎日辞めたいと思っていました。それほどつらかったです。

これは私の手です。これを撮ったのは仕事を始めて数日が経過した時です。チェーンソーを握る形で手が固まってしまっています。手をパーにして指を外側にそらすことも、グーで手を握り込むことも痛くてできません。なお未だに手の症状は良くなっておらず、毎日マッサージを続けてます。確実に腱鞘炎もしくは手根管症候群の症状が出ていると思います。私が経験したファームがものすごく過酷な労働環境だったのかは分かりませんが、もしファームでプルーニングの仕事をされる方はかなりキツい仕事だということを覚悟して臨んでください。

この疲労しすぎた手が後日コントロールを失い事故を起してしまいました。運悪くその日は背の高い木ばかりと格闘し肉体、精神ともに疲労しきっていました。たまたま手を伸ばしても届かない木があり、台に乗っかり極端な姿勢で幹に切り込みを入れていたら手元のコントロールを失ったと思いきや、足元のバランスを崩しそのまま派手にコケてふくらはぎにコントロールを失ったチェーンソーが落ちてきました。

チェーンソーで怪我した脚


チェーンソーの刃が回り続けたままふくらはぎに落ちてきました。かすり傷ですみましたが、これは本当にやばかったです。本当に脚をぶった切るかと思いました。雇用主に相談したところ、大したことない、化膿止めを塗って仕事に戻らされました。この日はいつ手元が来るって脚にチェーンソーが落ちてくるかヒヤヒヤしながら仕事していました。このころから雇用主への不安がつのりいつも仕事中に「いつかてめぇをこのチェーンソーでぶった切ってやるからな」と何度も心で唱えて憎悪を募らせていました。

雇用主、同僚と


この雇用主は、ギリシャからの移民で御年67歳。40年前ハンプティードゥーに土地を買い、男手一つでマンゴーファームを育て上げ、今では年に数千トンのマンゴーを市場に出荷するほど地元では有力なマンゴー農家に成長しています。数千本のマンゴーの苗木を一人でその土地に植え、長い年月をかけて育ててきました。そのためマンゴーに対する思い入れは誰よりも強く、自分の子供同然の接し方です。そのため仕事を完全に任せるという発想がなく、チェーンソーでのプルーニングも私たちと一緒に朝から晩までやっていました。それに加え、新たに苗木を植える作業をしたり、土地を耕したりしてまさしくほとんど寝ないで働いていました。我々はプルーニングだけでくたくたななのに、彼は早朝3時には起床してもう仕事しているんです。化け物だと思いました。色々心では悪態をついていましたが、彼の働く姿を見てしまうと閉口してしまうばかりです。

広大すぎる農園、車で移動


農場の移動手段は専ら車。遠すぎて歩いての移動は時間がかかりすぎるためです。仕事に向かう途中の車内ですが無言です。。誰も口を聞きません。一日およそ9時間の睡眠をとっても連日の疲れはとれません。疲れを残したまま働くので、日が経つに仲間内の雰囲気が暗くなってきます。



作業の終わる頃には、全身はもうぐちゃぐちゃ。Tシャツは絞れるほど汗を吸い、無数のウッドチップが全身にへばりついています。それをエアーブローで飛ばします。ウッドチップと止まらない汗は常に肌を刺激し続け、尋常じゃない痒さと戦いながら作業します。

ファームの中は色々な生き物の住処になっています。虫に慣れていない人は本当に大変です。蜂、蚊、蜘蛛、蟻、蠅、ムカデ、ヤモリ、バッタ本当に色々います。蜂の巣に遭遇した時は蜂に刺されながら作業したり、常につきまとってくる蠅は何度も鼻の穴や耳の穴に侵入してくるし、木に寄りかかって作業していたら突然足元から巨大なムカデが上ってくるし、不注意で蟻塚をぶっ倒したときは、無数の蟻が足元にたかってきて死ぬかと思いました。単純な切り込みの作業だと思ったら大間違い。様々な障害と格闘しながら作業を進めないと仕事になりません。



さてどうでしたでしょうか?わたしのオーストラリアファームの初体験。皆さんも働かれる時は私の今回の経験が十分あり得る物だということを留意して臨まれてください。都会育ちの人には少々過酷な労働環境です。

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